本来、淫欲少女抄とは、作者の個人的な若き日の性的妄想そのものであった。非常に希に、抑えきれないほど沸き上がるものがあって、大学ノートに書き付けた手書きの小説であり、その大半は現存していない。
この手書きノート版淫欲少女抄は、全く個人的に自己完結した「恥ずかしいもの」であって、これを公開するつもりは最初から無かった。
しかし、ごく最近になって、はたしてこれは自分にとって一体何だったのだろうか……と考えるようになった。性転換願望と解釈しても筋が通らないし、はたしてこれは他人から見たら何に見えるのだろう……と。このあたりの考察はデザインメモ/300.TSゲーム?でも述べている。
その結果として、通称pubissつまり他人に対して公開された(publicな)淫欲(i)少女(s)抄(s)を書くという構想が浮上した。だが、これは書けなかった。
そうこうしているうちに、唐突に同人エロゲーを書こう……という気持ちが盛り上がった。その際、ともかくプログラムを書きたかったので、設定等で頭を使いたくはなかったのだ。そこで思い出したのがpubissである。このゲームは、ノート版淫欲少女抄やpubissの設定を全面的に採用し、更に設定にない多くのものを追加して成立することになった。
実は、非常に印象深いことが1つある。それは、ノート版淫欲少女抄で構想されながら実際に書かれることのなかったシチュエーションが実体として蘇ったことである。電車内での痴漢は、まさにこれにあたる。また、実は人体実験を行う研究所は、既にノート版淫欲少女抄の段階で存在が明確に設定されていた。既に現存しない努町(当時は夢街と書いた)の地図にはっきりと所在が書き込まれていたのである。この研究所は実際にゲームに実装された*1。
さて、努町とは何だろうか。それは、本来「私」を楽しませる舞台装置であったはずだ。
そして、このゲームが持つ本質的な構造は、「私」の存在を抜いた努町をプレイヤーに提供することにある。「私」を楽しませる舞台装置を、不特定多数のプレイヤーを楽しませるために使用可能とするわけである。これが、このゲームの本質的な構造である。*2
しかし、私が楽しいことを他人が楽しいと思うか否かは分からない。
だから、これは手ひどいしっぺ返しを食うかもしれないリスクを抱えた挑戦ということになる。